0520 NVIDIA 800 V HVDC技術 次世代AIファクトリーをサポート
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- 7月16日
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AIワークロードの指数関数的な増加は、データセンターにおける電力需要の急激な上昇を引き起こしている。従来の54Vインラック電力供給方式は、キロワット(kW)スケールのラック向けに設計されたものであり、近い将来AIファクトリーに導入されるメガワット(MW)スケールのラックには対応しきれない構造である。
この課題に対応すべく、NVIDIAは2027年より、1MWクラスのITラックを支えるための800V高電圧直流(HVDC)データセンター電力インフラへの移行を主導している。この移行を加速させるため、NVIDIAはデータセンター電力エコシステム全体にわたる主要産業パートナーと連携し、包括的な取り組みを展開している。
■ 連携先業種および主な企業:
半導体供給企業:Infineon、MPS、Navitas、ROHM、STMicroelectronics、Texas Instruments
電力系統部品企業:Delta、Flex Power、Lead Wealth、LiteOn、Megmeet
データセンター用電源システム企業:Eaton、Schneider Electric、Vertiv
本イニシアティブは、次世代AIワークロードのニーズに応えるため、以下を目的としている:
高効率で拡張性の高い電力供給ソリューションの確立
インフラ構成の簡素化によるシステム信頼性の向上
次世代AIファクトリーの持続可能な電力設計への貢献
これにより、AI産業全体のスケーラビリティと運用効率の向上が期待される。
従来型ラック電力システムの限界
現在のAIファクトリーにおけるラックは、54V直流(DC)による電力分配に依存しており、ラック搭載のパワーシェルフから計算トレイへと電力を供給するために、大型の銅製バスバーが使用されている。しかし、ラックの電力消費が200キロワットを超えると、この方式は物理的制約に直面することになる。
■ スペース制約 現在のNVIDIA GB200 NVL72およびNVIDIA GB300 NVL72ラックでは、MGX計算およびスイッチシェルフに電力を供給するために、最大で8台のパワーシェルフが必要となる。仮に従来と同様に54V DCの配電方式を採用した場合、メガワット級スケールのKyberラックにおいて、最大64Uのラックスペースがパワーシェルフに占有され、計算処理のための空間が失われる可能性がある。実際、NVIDIAはGTC 2025において、Kyberラック内のRubin Ultra GPUを576個駆動させるための800Vサイドカー(補助電源ユニット)を展示した。もう一つの選択肢としては、各コンピュートラックに対し専用のパワーラックを用意する方式が挙げられる。
■ 銅材の過負荷 54V DCで1MWの電力を1ラックに供給するには、最大200kgの銅製バスバーが必要となる。1ギガワット(GW)規模のデータセンターにおいて、ラックバスバーのみで最大50万トンもの銅が必要となる可能性があり、現行の電力分配技術では、今後のGW級データセンターにおける持続可能性が極めて低いことが明らかである。
■ 非効率な電力変換 電力供給チェーン全体における交流/直流(AC/DC)の変換が繰り返される現行方式は、エネルギー効率に劣るのみならず、障害発生ポイントの増加という観点からも信頼性に課題がある。
800V HVDCによる電力インフラの革命
NVIDIAの800V高電圧直流(HVDC)アーキテクチャは、これらの課題に対し、全体的な電力インフラの再設計というアプローチによって解決を図るものである。
NVIDIAは、この800V HVDC構想を実現するために、データセンターの電力エコシステム全体と連携し、必要となる革新と変革の推進に取り組んでいる。これは、半導体メーカーから電源システム構築企業に至るまで、広範な産業パートナーとの協働を通じて展開されるものであり、次世代AIデータセンターに不可欠な高効率・高信頼性・高密度電力供給の新たな標準を形成するものである。
グリッドから電源室への効率的な電力供給方式
従来のデータセンターにおける電力供給方式は、複数段階の電圧変換を伴うものであり、それにより電力損失が発生し、電気系統の複雑化を招いていた。これに対し、13.8kVの交流(AC)商用電力を、データセンターの外周部にて工業用整流器を用いて直接800Vの高電圧直流(HVDC)に変換することで、大半の中間変換工程を排除することが可能となる。この簡素化された電力供給手法により、従来のAC/DCおよびDC/DC変換過程において発生していたエネルギー損失を大幅に低減できる。
この方式はまた、電力供給チェーンにおいて必要とされるファン付きの電源ユニット(PSU)の数量を著しく削減する効果も有する。PSUおよびファンの数が少ないことは、システム全体の信頼性向上、発熱の低減、ならびにエネルギー効率の改善に直結し、HVDC方式が現代型データセンターにとってより効果的な電力分配手段となることを示している。また、構成部品の総数削減によるコスト抑制も期待できる。
単一ステップによるAC/DC変換により、電力の流れがより直接的かつ効率的になり、電気系統の構造も簡素化されるため、保守負担の軽減にも寄与する。ただし、過電流保護や保守性のさらなる信頼性確保に向けては、今後も技術革新が求められる領域である。HVDCはまた、送電損失の低減および電圧安定性の向上をもたらし、重要インフラへの電力供給を安定化させつつ、銅材やその他の資材コストの削減にも寄与する。
この設計思想は、データセンターにおける運用効率を高めると同時に、電力インフラのアーキテクチャをシンプルにする効果をもたらすものである。
800V直流による列単位の電力管理とITラック実装の最適化
800Vのバスウェイを使用し、従来の415V交流(AC)配電から800V直流(DC)配電へと移行することで、同一断面積の導体を通じて85%多くの電力を供給することが可能となる。これは、電圧の上昇により必要電流が減少し、その結果として抵抗損失が低減され、電力伝送効率が向上するためである。
電流が低下することで、同等の電力負荷をより細い導体で扱うことが可能となり、銅材の使用量を約45%削減することができる。さらに、直流システムでは、交流特有の非効率要素――スキン効果や無効電力による損失――が存在しないため、エネルギー効率が一層向上する。800V直流配電を導入することにより、データセンター施設は電力供給能力の増大、エネルギー効率の改善、ならびに材料コストの削減といった多くの利点を享受できる。
ITラックへの実装
800Vの直流入力を直接受け入れることで、コンピュートラックはAC/DC変換ステージに依存せず、効率的な電力供給が可能となる。このようなラックは、2導体による800V直流給電を受け入れ、ラック内部でDC/DC変換を行うことでGPUデバイスを駆動する構造となっている。ラックレベルでのAC/DC変換モジュールを排除することにより、スペースの有効活用が可能となり、より多くの計算資源の搭載や高密度構成、さらには冷却効率の向上が実現される。
従来のAC/DC変換を必要とする設計では、追加の電源モジュールが必要であり、物理的なスペースやシステム複雑性が増大していた。これに対して、800V直流を直接入力する構成は、電力設計を簡素化しつつ、性能面でも大幅な改善をもたらすものである。
800V HVDC 主な利点
スケーラビリティ:同一の電力インフラを用いて、100kWから1MWを超えるラックに対応可能であり、データセンターの拡張をシームレスに実現できる設計である。
効率性:従来の54Vシステムと比較して、電力供給全体における効率が最大5%向上し、エネルギー利用率の最適化が可能となる。
銅材使用量の削減:従来の415V ACまたは480V DCアーキテクチャと比べ、800V HVDCは電流を大幅に削減し、それに伴う銅使用量および熱損失の抑制に寄与する。
信頼性の向上:従来のITラック搭載型電源ユニット(PSU)は、ダウンタイムを抑えるために冗長構成が必要であり、結果として頻繁なモジュール交換を伴うメンテナンスが発生する。一方、HVDCでは電力変換の集中管理により信頼性が向上するが、障害検知および保守性は今後の技術革新が求められる重要な領域である。
ITラック内のPSUは、物理的制約により冷却課題が生じ、コストと長期信頼性のトレードオフが不可避であった。電力変換をラック外に移すことにより、これらのリスクを低減できる。
将来性への対応:1MWクラスのラックを基準に設計されており、今後さらに高出力なラックへの対応にも柔軟にスケール可能であるため、将来のAIデータセンター拡張にも適応可能である。
施設レベルにおけるHVDC導入の課題
過去にも高電圧DCアーキテクチャの試行は行われてきたが、技術的制約や導入時の課題により広範な普及には至らなかった。しかし現在では、以下の要因により状況が大きく変化しつつある:
AIワークロードによるラック密度の急激な増加
電力変換技術の進展
電気自動車(EV)向け充電インフラの発展による産業基盤の成熟
これらの要素が相まって、800V HVDCの実用化・拡張性が現実的な選択肢となっている。
ただし、施設レベルでのHVDC導入には、安全性、規格整備、人材育成といった新たな課題が伴う。これに対し、NVIDIAおよびパートナー各社は、従来型の変圧器ベース方式と固体変圧器(SST:Solid-State Transformer)方式の両方について、設備投資(CapEx)、運用コスト(OpEx)、および安全性への影響を総合的に検証しており、円滑な移行を実現するための取り組みを進めている。
800V HVDCによる未来志向の電力アーキテクチャの展望
800V HVDCは、単なる現行のITラック向け電源ソリューションではなく、将来にわたり拡張可能なAIインフラストラクチャを実現するための基盤である。NVIDIAのKyberラックスケールシステムにあわせ、800V HVDC対応のデータセンターは2027年より本格的に量産開始される予定であり、今後さらに複雑化・高負荷化するAIモデルに対して、スムーズなスケーラビリティを提供する設計となっている。
800V HVDCアーキテクチャには、データセンターにおける瞬間的な電力スパイクや、サブセカンド単位で変動するGPUの消費電力に対応可能なエネルギー貯蔵ソリューションも含まれており、今後の詳細情報の公開が期待される。
AIワークロードは、従来の100倍から1,000倍の計算能力を1クエリあたりに要求するようになってきており、800V HVDCは、この持続的な成長を支えるために設計されている。さらに、エネルギー効率、信頼性、システム設計の最適化により、総保有コスト(TCO)を最大30%削減することが可能である。
■ 主な効率改善ポイント
エンド・ツー・エンドの電力効率が最大5%向上
PSU(電源ユニット)の故障減少および保守工数の削減により、メンテナンスコストを最大70%低減
ITラック内のAC/DC PSUを排除することで、冷却コストを削減
NVIDIAは高速GPUの開発にとどまらず、AIの真の能力を引き出すため、電力インフラ全体の再設計にも取り組んでいる。メガワット級のAIファクトリーにおける超高効率時代が、いま始まろうとしている。
さらに、Data Center World 2025の講演「加速計算時代におけるスケールアウト型データセンターの役割」もぜひご視聴いただきたい。


